赤血球、貧血等の血液疾患

血球所見まとめ

  原因 疾患
Schistocyte 破砕赤血球 RBCに対するシェアストレス DIC, HUS, TTP
Acanthocyte
Spur cell
  無βリポプロテイン症
Bite cell 脾臓でHeinz bodyが除去されて生じる。 G6PD欠損
Basophilic Stippling リボソームの集積 鉛中毒、サラセミア、MDS
Spherocyte 球状赤血球   遺伝性球状赤血球、AIHA、熱傷、古いサンプル、サラセミア
Target cell surface area-to-volume ratio 膜のだぶつき RBC体積低下: サラセミア、IDA、Sickle cell
RBC膜の余剰: 閉塞性肝疾患、無脾
Tear drop 脾造血、線維化骨髄による損傷 骨髄線維症
Howel-Jolly body DNA遺物で通常は脾臓で除去されている 脾摘後
Heinz body 酸化ストレス G6PD欠損症
Pappenheimer body sideroblastic anemia

輸血の抗体

赤血球のマッチングはABOとRhをまずマッチングさせる。

次に輸血前の赤血球抗体をスクリーニングする。この際に抗体が見つかれば、その抗原が無い赤血球を探して輸血することになる。

頻回の輸血によりE,L,Kといった赤血球抗原に対する同種抗体Alloantibodiesができることあり、それにより投与可能な製剤が減る。

パルボB19感染

Sickle Cell disease遺伝性鎌球状赤血球貧血にAplastic anemiaを惹起する。

新生児

新生児多血症 neonatal hypercythemia子宮内発育不全 (maternal DM, HTN, smoking), 臍帯の遮断の遅れにより新生児の血管運動因子が刺激されヘモグロビン産生が亢進するために産後2−3時間で生じる。ほとんどの場合は産後24時間以内に自然経過し、無症候性である。しかし、血液粘稠度増大による呼吸障害、低灌流、組織低酸素血症、低血糖、高ビリルビン血症を合併しうる。毛細血管採血は温度、血流の影響により15%程度ヘマトクリットが高くなる。治療は輸液、低血糖補正。無効であれば、Partial Exchange Transfusion(血液を瀉血して、生理食塩水を補充する。)を行う。

ヘモグロビン:酸素との結合力の強いHbFにより、胎盤での母体血からの酸素を吸収している。HbFはα2γ2。生後6ヶ月で成人型HbA α2β2に切り替わる。

新生児では出生後EPOが産生不足であり、一時的な貧血がある。(anemia of prematurity)

エリスロポエチンと多血症

腎皮質が虚血を感知するとエリスロポエチンが分泌される。そのため、睡眠時無呼吸症候群やCOPD、右左シャント疾患、高度生活で2次性の多血症となる。エリスロポエチンはおそらく血管内皮や平滑筋を刺激することで、高血圧を惹起する。他には粘稠度上昇による血栓症のリスク。(エリスロポエチンの低い多血症は腫瘍性の真性多血症)

エリスロポエチンの作用としては、JAK2/STAT系に作用し、造血前駆細胞のアポトーシス抑制と分化の促進に作用する。

肝や脾での髄外造血もエリスロポエチンで刺激される。また大量増殖した造血前駆細胞が骨髄に浸潤することで、体幹や顔面骨の変形を来す。

The cardiovascular effects of erythropoietin.

小球性貧血 Microcytic anemia

iron deficiency;    MCV↓, Iron↓, TIBC↑, Ferritin↓, Iron/TIBC↓

Thalassemia;     MCV↓, Iron↑, TIBC↓, Ferritin↑, Iron/TIBC↑(reduced globin production)

Chronic inflammation;  MCV↓, Iron↓, TIBC↓, Ferritin↑, Iron/TIBC↓(defective Fe utilization)

Sideroblastic, Lead; MCV↓, Iron↑,        Ferritin↑          (reduced heme synthesis)

*TIBC上昇はTransferrin上昇と同義になる。

RBC新生時にはKを消費するため、不足栄養素の補充時にはカリウム値の推移に注意する。

鉄芽球性貧血 Sideroblastic anemia 

鉄欠乏性貧血様のmicrocyticanemia。dimorphic RBC (hypochromic and normo)。原因はisoniazid(prydoxine phoshokinaseを阻害し、補酵素VitB6が活性化するのを阻害し、結果、ALA合成酵素が低下する。)、クロラムフェニコールリネゾリドの使用、X染色体性のALA合成酵素異常の遺伝アルコール乱用銅欠乏。pyridoxine (Vit B6) によって治療。採血=increased serum iron, decreased TIBC, 診断は骨髄生検でのPrussian blueでringed sideroblast 。

鉄欠乏性貧血 IDA

鉄補充によりHbは最初の3週間は2g/dlで増加する。この際に網状赤血球も多数末血中に放出される。網状赤血球は残存リボソームRNAによる好塩基性の網状の組織が染色され、Wright-Geimsaで青色となる。1日ほどでRBCとなり、120日の寿命を持つ。低色素性貧血、血球の大小不同症。鉄補充はビタミンCと共に行うと吸収率が上がる。鉄治療後はまず、1−2週以内に網状赤血球数が増加し、ヘマトクリットとヘモグロビンが増加するのは1か月かかる。フェリチンが増加するのはヘモグロビンが正常化してから。

幼少期の鉄欠乏性貧血

未熟児、鉛暴露、6か月以降の授乳主体の栄養、1才以下での牛乳摂取、1才以上での>24 oz/dayの牛乳摂取。

幼児の慢性的な鉄欠乏は神経の髄鞘化、分化に影響を与え、精神運動発達遅延、IQ低下につながる。

異食症 Pica

妊娠やIDAに認める。pagophagia食氷はIDAに特異的

先天性赤芽球癆 Diamond-Blackfan anemia 

congenital pure erythroid aplasia, craniofacial abnormality, triphalangeal thumbs3節母指, macrocytic anemia, reticulocytopenia, 治療=RBC, steroid

赤血球無形成 Pure red cell aplasia (PRCA)

赤血球造血前駆細胞に対する、IgG抗体や細胞傷害性T細胞による障害。RBCのみ造血不良となる。胸腺腫リンパ球性白血病パルボB19感染に合併する。

再生不良性貧血 Aplastic anemia

造血幹細胞(CD34)を障害する毒素やT細胞応答の結果。原因は自己免疫性、薬品(化学療法、ガソリンやタバコなでのベンゼン、カルバマゼピン、クロラムフェニコール)、放射線、ウイルス感染(肝炎やEBV)。スメア正常、脾腫なし。骨髄生検はhypocellularity, fatty infiltration

Fanconi anemia

先天的なDNA修復異常。AR。低色素斑、低身長、手指形成不全。Pancytopenia。AML等のリスク。abdominal skin pigmentation, short stature, upper limb abnormalities. abnormal thumbs

Wiskott-Aldrich syndrome

X-linked recessive. impaired cytoskelton changes in leukocytes and plateletsが原因。eczema湿疹, 小さい変形した血小板で血小板数低値。TおよびBリンパ球異常により、母体移行のグロブリン消失後より再発性の感染症。治療=HLAマッチした骨髄移植。(stem cell transplant)

ゴーシェ病 Gaucher Disease

ユダヤ人に多い、常染色体劣性遺伝、βセレブロシダーゼ欠損。グリコリピッドの蓄積を白血球と赤血球に認める。ゴーシェ細胞は脂肪の蓄積したマクロファージでシワ寄ったティッシュペーパーのような細胞質肝脾腫(特に脾腫は巨大に)、汎血球減少症病的骨折。

ABO不適合妊娠 ABO hemolytic disease

A型やB型の母がそれぞれB型やA型の胎児を妊娠した場合は、母に形成される抗体はIgM型の抗B抗体、抗A抗体であるため、胎盤移行せず、胎児溶血は生じない。母がO型である場合、形成される抗B抗体、抗A抗体はIgG型であるため、胎盤移行して胎児溶血(不適合時の少数割合のみ)となる。抗BもしくはA抗体は、食事や細菌、ウイルスにより妊娠前から形成されるため、Rh不適合妊娠と異なり、初回妊娠時から生じうる。

胎児は黄疸、貧血が生じ、出生後、経口補液、光線療法(T-Bil<25mg/dl)が必要となる。交換輸血(ビリルビン、抗体を取り除き、RBCを輸血製剤で置き換える)はT-Bil>25mg/dlで施行する。

アロイミュナイゼーション、Rh不適合妊娠Alloimmunization

Rh positiveの胎児がRh negativeの母から出生する場合にリスクとなる。初回妊娠時に胎児のRh (D)抗原に母が感作され、2児目に胎盤を通過する抗Rh(D) IgG抗体により胎児が溶血をおこす。(直接Coombs陽性)児は貧血、黄疸、胎児水腫、髄外造血となる。

予防:抗Rh(D) イムノグロブリン(IgG抗体)を28週と出産後72時間以内に投与する。 母体内に入った少量の胎児RBCによる母体感作が起こる前にイミュノグロブリンと結合、脾臓で除去する。投与したグロブリンは母体感作時よりも量が非常に少ないため、投与グロブリンによる重篤な胎児溶血は生じない。早期胎盤剥離や中絶、手術等の際は、追加のグロブリンを投与する。KBテストで投与量を決定。

脾摘後 After splenectomy

  • impaired antibody-mediated phagocytosis (opsonization)
  • howel jolly bodies(single, round blue inclusion on Wright stain)
  • Target sign: 脾でのRBCの膜余剰を除去(Splenic conditioning)がなくなるため。しかし長期的には他組織でのマクロファージがその機能を担い、Taget signは消える。

サラセミア Thalassemia

βグロビンのmRNAの様々な障害につながる遺伝子異常が原因。溶血性貧血から髄外造血が活性化する。肝脾腫、Hemoglobinopathy, reduced hemoglobin synthesis, 小球性貧血(RBC数は正常だが、MVCが下がっている)、血中フェリチン/鉄は上昇(RBCのターンオーバーの亢進による)

検査 ヘモグロビン電気泳動

  • beta=Mediterranean HbA2, α2δ2
  • beta サラセミア マイナー:東南アジアに多い。通常無症状性の小球性貧血
  • alpha thalassemia major=γ4(gamma tetramer)=southeast Asia,
  • alpha thalassemia intermediate=β4、usually asymptom,

生後すぐにはHbF(α2γ2)が血中にあるため、症状を呈さないtarget signmicrocytic anemia but high RBC count due to high turnover。 治療=輸血, 鉄のキレート療法が必要、鉄補充は不要。

小球性貧血の鑑別サラセミアもしくは鉄欠乏性貧血

遺伝性毛細血管拡張 hereditary hemorrhagic telangiectasia  (Osler-Weber-Rendu synd)

常染色体優性遺伝。皮膚、粘膜のびまん性の毛細血管拡張( ルビー色の小結節で圧迫で消退する), 鼻出血, 動静脈奇形が皮膚や消化管、肝臓、脳、肺に生じうる。(低酸素症、ばち指, digital clubbing, 反応性多血症, 喀血)

遺伝性球状赤血球症 hereditary spherocytosis

AD. northern Europeの家系。 RBC細胞膜の脆弱性による脾内溶血。黄疸, 有色素性ビリルビン性胆石、脾腫。末梢血スメアで球状赤血球,negative coombs。浸透圧溶血( acidified glycerol lysis test)normal MCV, increased RBC distribution width,increased MCHCヘモグロビン濃度(cellular dehydration)これがpyruvate kinase deficiencyやG6PD deficiencyとの違い。塗抹は中心が白くないやや小さめのRBCパルボ感染でのaplastic anemiaのリスク。感染を誘引に溶血発作となりうる。浸透圧脆弱性検査が陽性。

G6PD (Glucose-6-phosphate dehydrogenase)欠損症

X染色体劣性遺伝のG6PD酵素欠損であり(ペントースリン酸経路:Glucose-6-Phosphateから6-phosphogluconateに変換)、男性で発症、女性はキャリアであることが多い。glycogenからglucoseへの変換が障害されglycogenが蓄積する。低血糖、痙攣、乳酸アシドーシス、人形様顔貌、肝腫大。ペントースーリン酸経路でNADPHの減少酸化グルタチオンの増加により、酸化ストレスを来す薬剤(dapson、TMP-SMX、抗マラリア薬等)、感染、DKA、fava bean摂取を契機にした血管内溶血するSupravital染色陽性の暗い細胞内封入体(Heinz body)を含むRBC、Bite Cell

G6PD activity testは感度が低いが診断的な検査。

グルタチオンリダクターゼの欠損もG6PD欠損症と同様の病態となる。

ペントースリン酸回路は肝臓や副腎で活性化しており、NADPHが脂肪酸やコレステロールの産生、ステロイドの産生、チトクロームP450の代謝に関連している。

ペントースリン酸経路の下流の、ヌクレオチド生産に必要なRibose-5-phosphateとFructose-6-phosphateの変換にはTransketolaseとTransaldolaseが必要である。

Autoimmune hemolytic anemia AIHA

“warm”原因=IgGによるII型アレルギー。CLL, viral infection (HIV), autoimmune (SLE), drug(penicillin)。所見=normocytic anemia, splenomegaly, spherocyte in smear, direct coombs positive, 治療=steroid

“cold” 原因=infection (mycoplasma, infectious mononucleosis) anti-IgM, Tx=avoid cold temperature, rituximab

鎌状赤血球症, Sickle cell disease

ホモ接合体。ヘモグロビンのミスセンス(ValineがGlutamic acidに置き換わっている)Hemoglobin S. 慢性的な溶血で葉酸欠乏。脾は機能的低脾状態。(auto-infarction)( howell-jolly bodies). そのため、encapsulated organismsに易感染性。 血管閉塞性疼痛は、低酸素酸素需要の多い臓器で起きやすい)、寒冷暴露脱水などでヘモグロビンSが疎水性に反応して重合したり、鎌状になることで誘発される。osteonecrosis

指炎 dactlylitis; vaso-occlusion症状として乳児にも出現する。骨は閉塞部位に造血細胞が存在するため、症状がでない。急性発作時は補液、鎮痛(NSAIDs、次にオキシコドン、モルヒネ(コデインやトラマドールは呼吸抑制のリスク高く子供には禁忌))、指の加温。ハイドロキシウレアは効果発現に数ヶ月かかり、急性発作には有効ではない。

検査はヘモグロビン電気泳動検査を行い、ヘモグロビンS上昇、ヘモグロビンAの低下を認める。

治療:ハイドロキシウレア HydroxyureaはHb Fを増やすことで、相対的にHb Sが減り、重合するリスクが減る。副作用は骨髄抑制 (neutropenia).

*Aplastic crisisはパルボB19感染により生じる一過性の造血停止。脾腫はみとめず、網状赤血球数が低下する。骨髄所見として巨大な前正赤芽球pronormoblastを認める。

*Splenic sequestration crisisは脾臓の血管閉塞であり、急速な脾腫を伴う。脾摘前の子供に起こりうる。

*Acute sickle hepatic crisis:脱水により引き起こされる急性肝障害。赤血球破壊と肝静脈洞閉塞による肝虚血、発熱。妊娠中に生じうる。

*Acute Chest SyndromeはSCDに起こりうる合併で、肺血管の閉塞、成人であれば脂肪塞栓、小児であれば感染で惹起される。高熱、低酸素血症、胸痛を伴う。セフトリアキソン、アジスロマイシンの抗生剤投与、補液、疼痛管理を行う。

Sickle cell trait

ヘテロ接合体。ヘモグロビンA とSを認める。通常無症状で予後は健常人と変わらない。血尿、腎乳頭壊死と低張尿、尿路感染、持続勃起症、高地(低酸素)での脾梗塞、静脈血栓症。マラリアPlasmodium falciparumに対する防御能あり。しかし流行地では予防的抗マラリア薬必要。

  Hb A Hb A2 Hb S Hb F
健常人 99% <2.5% 0% <1%
βサラセミアminor 低下 高値 0% ほぼ正常
βサラセミアmajor 0% 著明高値 0% 著明高値
Sickle cell disease 0% ほぼ正常 85-95% 5-15%
Sickle cell trait 50-60% ほぼ正常 35-45% <2%
生後すぐは70%等で
その後減り続ける。

ヘモグロビンC症

アミノ酸が置き換わったミスセンス変異によって生じるヘモグロビン異常症。ヘモグロビンCはより陽性荷電であり、ヘモグロビン電気泳動で正常(マイナス荷電)、鎌状赤血球症(中間)と鑑別される。通常無症状で、ときに溶血、脾腫となる。

酸素乖離曲線

Hb は4つのヘムから形成され、一つのヘムが酸素と結合すると、残りのヘムがより酸素と結合しやすくなる。そのため、S字型の酸素乖離曲線となる。体温上昇で右にシフト(離れやすくなる)、低下で左にシフトする。

Hbの酸素結合性はグルコース代謝時に2,3-Bisphosphglycerate (BPG)を作ることで(この変換時にはATPを産生しない)、Hbの酸素結合性を弱め、組織への酸素運搬性を高めることができる。低酸素時に2,3-BPGの産生は増加する。

一方で筋肉組織で酸素貯蔵を担うミオグロビンは酸素飽和に必要な酸素分圧はヘモグロビンより低く(左に位置する)、また他のミオグロビンとの相互作用がないため、双曲線カーブ(上に凸)となる。Hbは4つのヘムから成るが、ヘム自体はミオグロビンと構造が相似しており、1つに分離されたヘムの酸素解離曲線はミオグロビンとほぼ同じとなる

HbSは通常乖離曲線の右方(酸素結合弱い)、HbFは左方(酸素結合強い)

赤血球内での変換を介したCO2運搬

末梢組織で代謝の結果産生されたCO2は、静脈血で運搬される必要がある。CO2はカルバミノヘモグロビンと血漿に溶けた重炭酸のいずれかで運搬される。赤血球内のヘモグロビンがCO2と結合してカルバミノヘモグロビンとして運搬されるCO2の量は少なく、多くは重炭酸イオンとして運ばれる。

CO2は赤血球内でカーボニック アンヒドレースにより水酸化され、重炭酸となる。そして重炭酸イオンに分離し、赤血球のband 3 蛋白を介して塩素イオンと引き換えに血漿へ放出される。これにより血中の重炭酸イオンとして静脈血で運搬される。このため、静脈血では赤血球内でクロールイオン濃度が高い

 

 

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