腫瘍学 Oncology

発がん物質の代謝

ほとんどの体内に摂取された発がん物質は、前駆物質であり、不活状態である。これらは肝臓ミクロソーム内もしくは他細胞の小胞体内に存在する、チトクロームP450モノオキシゲナーゼ(通常、ステロイド、アルコール、毒素の代謝、排泄に関与)で代謝されると発がん化される。この酵素の働きは遺伝で規定される。

悪液質

Tumor necrosis factor-α(TNF-α)は腫瘍を壊死させる効果があるが、同時に悪液質の症状も呈する。感染、腫瘍によりマクロファージによって分泌され、視床下部で食欲抑制する。また、代謝亢進(wasting)、発熱、肝臓からの急性炎症蛋白(CRPやフィブリノーゲン)の放出を促す。

TNF−α、IL-6は細胞内蛋白を分解するユビキチンープロテアソームを活性化し、これによりアクチンやミオシンといった蛋白が選択的に分解される。

癌に付随する食欲不振にはprogesterone analogues (megestrol etc) や steroidsを用いる

抗がん剤に付随する嘔気にはserotonin (5HT) receptor antagonist (ondansetron)を用いる。

Anaplastic Tumor, 未分化癌の特徴

  • 組織構造の無い増殖
  • 細胞、核の多形性
  • 大きな核、濃い核
  • 多数の細胞分裂像
  • 巨大な多核腫瘍細胞

腫瘍の悪性化のプロセス

  • E-Cadherinの減少によって、腫瘍細胞が周囲の組織から離れるようになる。(もしくは、Fibronectinと接着する膜蛋白Integrinの発現低下)
  • Laminの発現によって、基底膜(血管壁など)へ腫瘍細胞が接着するようになる。
  • MetalloproeinaseやCathepsin D proteaseなどの蛋白溶解酵素の分泌によって、腫瘍細胞が基底膜を浸潤するようになる。(脈管浸潤となる)

血管新生について

  • Vascular endothelial growth factor (VEGF):正常組織、炎症、治癒、癌において、血管内皮細胞の遊走と増殖、毛細血管の分枝を促す。
  • Fibroblast growth factor (FGF):FGF群は血管新生、胎内発生、造血、創傷治癒に関与。

細胞周期と抗がん剤

  • G1:合成前の成長 
  • S:Synthesis。DNAの複製。 代謝拮抗薬
  • G2:細胞分裂前の成長。DNAの損傷修復  ブレオマイシン、Doxorubicin
  • M:細胞分裂  ビンカ アルカロイド、タキサン
  • G0:静止期。

生物学的製剤のネーミング

  • mab:モノクローナル抗体
  • cept:受容体分子。おとりの受容体として、細胞間シグナルを減弱させる。
  • nib:キナーゼ阻害薬

モノクローナル抗体薬のネーミングルール

接頭語 作用対象 薬剤のオリジン 接尾語
決まりなし b(a) 細菌 o マウス mab
c(i) 心血管 u ヒト
f(u) 真菌 xi キメラ
k(i) インターロイキン zu ヒト化
l(i) 免疫修飾 xizu キメラ化・ヒト化のハイブリット
n(e) 神経    
s(o)    
tox(a) 毒素    
t(u) 腫瘍    
v(i) ウイルス    

()内の母音は続く単語が子音の場合に用いられる

 

Epidermal growth factor receptor(EGFR)に対するモノクローナル抗体療法

KRASは細胞増殖や成長を亢進させる蛋白であるが、EGFRという細胞膜のチロシンキナーゼが活性化する事で、その下流でGTPがKRASに結合し活性化する。大腸がんや膵癌ではEGFRの過発現やKRAS異常により無制限な増殖を起こしているため、KRAS異常ではないタイプの腫瘍(wild-type KRAS)に対しては、EGFRに対するモノクローナル抗体治療が有効的である。KRASが変異したタイプではEGFRは上流のシグナルであるため、EGFRモノクローナル抗体は無効となる。

乳がんに対してHuman Epidermal growth factor receptor 2(HER2)が過発現であれば(20%)、抗HER2モノクローナル抗体薬としてTrastuzumabが用いられる。

PD-L1, PD-1, CTLA-4に対するモノクローナル療法

腫瘍細胞が細胞障害性T細胞からの免疫応答を逃れるためPDーL1 (Programmed death ligand -1)を発現し、細胞傷害性T細胞のPD-1受容体と結合することで、免疫応答を下げる。また、腫瘍細胞のB7が、T細胞のCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein-4)に結合することでも免疫応答を弱める。PD-1, PD-L1, CTLA-4に対するモノクローナル抗体療法は、その免疫応答を弱めるプロセスをブロックするため、がん細胞に対する自然免疫の回復が期待できる。PD-1に対するモノクローナル抗体(pembrolizumab)はメラノーマ、肺がんの一部、腎細胞がんに対して米国で用いられている。

薬剤の副作用としては免疫応答による、皮膚、肝臓、消化管、内分泌器官の炎症がある。

The Next Immune-Checkpoint Inhibitors: PD-1/PD-L1 Blockade in Melanoma.

Cyclin-dependent kinase 4 and 6 (CDK 4/6)阻害薬

Retinoblastoma protein(RB)が細胞周期のG1からSへの進行を促進する作用を阻害する。CDK4/6はRBの上流のシグナル。おおくの腫瘍でこのメカニズムが亢進している。Palbociclib等

細胞分裂が盛んな細胞が副作用を受けやすく、特に骨髄造血細胞が障害され、血球減少となる。

葉酸代謝拮抗薬

メソトレキセートは葉酸の代謝(Folic acidからFolinic Acidへ)を阻害し、アミノ酸、核酸の合成阻害する。この経路阻害はN5-formyl-tetrahydrogolate=Folinic acid(ロイコボリン)の補充で緩和でき、レスキューとして用いられる。( 葉酸ではレスキューに効果は得られない。) メソトレキセートの使用で細胞内にdihydrofolateが蓄積する。5-FUも同経路でメソトレキセートと同様の働きをするが、このロイコボリン経路の下流に位置するため、ロイコボリンによるレスキュー効果は得られない。

Vinca Alkaroids

微小管の形成を阻害する結果、M期において複製された染色体の整列し、娘細胞に組込まれること阻害される。神経細胞内の微小管輸送も阻害されるため、Vincritineにおいて魔性神経障害が認めうる。

メルカプトン製剤

6-mercaptopurine (6-MP)や6-MPのプロドラッグのAzatioprinや6-thioguanine (6-TG)はキサンチンオキシダーゼ(アロプリノール)により不活化が阻害され、効果が高まるため、併用時は75%の減量が必要となる。

トポイソメラーゼ II 阻害薬

トポイソメラーゼIIはDNAのひずみを2本同時に切断、再結合して解消する。この酵素を阻害して、染色体を障害、細胞死をはかる薬剤がトポイソメラーゼII阻害薬であり、植物由来のアルカロイドであるEtoposide(DNAの再結合を障害)が精巣がん、肺小細胞癌に、Podophyllinが陰部疣贅治療に用いられる。

窒素マスタード製剤

シクロホスファミドはDNAをアルキル化する抗腫瘍薬。副作用として出血性膀胱炎があるが、これはシクロフォスファミドが代謝されてAcroleinが生成され、これが膀胱内で上皮細胞を障害するためである。Mesnaを予防的に投与することによって、このAcorleinが不活化され、膀胱上皮障害を予防できる。

Biologic Response Modifiers

  薬剤 作用 対象疾患
  Rituximab 抗CD20陽性B細胞 モノクローナル抗体 lymphoma
  Herceptin モノクローナル抗体 乳がん
  Infliximab IgG1モノクローナル抗体 (抗TNFα) 関節リウマチ、強直性脊椎炎、クローン病
  インターロイキン2 インターロイキン2 腎細胞がん、メラノーマ
  Imatinib BCR/ABLプロテインチロシンキナーゼ阻害薬 CML
  Abciximab 抗血小板GPIIb/IIIa モノクローナル抗体 急性冠症候群

抗がん剤副作用

  • アントラサイクリン(Doxorubicn):心筋障害
  • HER2阻害薬(Trastuzumab):心筋障害
  • プラチナ製剤(シスプラチン):感音性難聴
  • ビンクリスチン:末梢神経障害
  • Bortezomib:末梢神経障害
  • シクロフォスファミド:出血性膀胱炎
  • ブレオマイシン:肺線維症

心毒性のモニター

アントラサイクリン系を用いる際は、心機能の評価として核医学検査を投与前、各クール前に施行する。ベースラインでEF30%以下は禁忌、50%以下は用量調整の必要あり。10%以上の低下があれば、治療中止を検討する。

抗がん薬耐性化メカニズム

Pグリコプロテインは尿細管や腸管上皮細胞で発現し、異物を排出する機能や脳血管障壁として中枢神経毛細血管内皮細胞で異物の侵入を防ぐ機能を担っている。このPグリコプロテインが悪性腫瘍に発現することで、ATP依存性の膜タンパクとして抗がん剤を細胞外へ排出する。特にアントラサイクリンなどの疎水性薬剤が排出されやすい。

これに対し、ベラパミル、ジルチアゼム、ケトコナゾールなどが、Pグリコプロテインの機能を抑える実験報告がある。

放射線治療の作用

  • DNA2本の破壊:片方のDNAの損傷はポリメラーゼで修復されるため、両方のDNA破壊が必要である。
  • フリーラジカルの形成:放射線によりイオン化水が形成され活性酸素が形成され、細胞やDNAが破壊される。

効果は、ある一定の放射線量以上から急激に出現する。

照射線による心毒性

心筋虚血、拡張障害を伴う拘束性心筋症、拘束性心外膜炎、弁膜症(逆流症および狭窄症)、伝導障害

Cardiac complications of oncologic therapy

悪性腫瘍転移

多発性の転移時は原発巣から離れた部位ので生検を行う。通常、鎖骨上リンパ節の生検が表在性にあることから好まれる。

骨メタ bone metastasis

腫瘍(前立腺がん、乳がん、腎臓がん、甲状腺がん、肺がんが多い)による骨転移の痛みは、夜に増悪し、姿勢や鎮痛薬への反応性が不良である。

  • 溶骨性:骨髄腫、非小細胞性の肺癌、非ホジキンリンパ腫、腎細胞がん、メラノーマ
  • 混合性:消化管がん、乳がん
  • 造骨性:前立腺肺小細胞癌、ホジキンリンパ腫

造骨性、混合性は骨シンチで検知できるが、溶骨性は骨シンチでは検知しにくい。

付随する高カルシウム血症にはbisphosphonates を用いてosteoclastic activity を抑制する。

前立腺がんを含む骨盤部の腫瘍は、血行性に骨組織へ播種する。前立腺静脈網椎体静脈網と接続しており、また同時に椎体静脈網は脳循環とも静脈弁なく接続している。そのため、脳メタも同様の機序で起こる。

腫瘍崩壊症候群 Tumor lysis syndrome

腫瘍細胞の急激な崩壊による。細胞内電解質のP, Kの血中濃度上昇(Caは↓)。核酸はプリン体から尿酸に異化されて上昇する。尿酸上昇は腎に蓄積し、閉塞性腎障害となる。

予防、治療は十分な補液と、尿酸の上昇予防。アロプリノールはプリン体から尿酸への変換を阻害、尿素オキシダーゼ(Rasburicase)は尿酸をより可溶性のあるAllantoinに変換し、体外排出を促し、高尿酸血症による腎障害を防ぐ。

傍腫瘍症候群

皮膚筋炎は卵巣がん、大腸がん、非ホジキンリンパ腫に多い。

がん遺伝子

  • 癌抑制遺伝子(2hitの遺伝子喪失で癌化):APC、BRCA1/2 、DCC、NF1,RB、TP53、VHL、WT1

機能は、DNA修復、細胞分化、細胞周期コントロール、転写制御

  • 癌原遺伝子 (1hitの異常獲得で癌化):ABL、BRAF、HER1、HER(human epidermal growth factor receptor)2、MYC、RAS(KRAS、HRAS)、SIS、TGFA。ERBB1
癌原遺伝子   癌抑制遺伝子  
RAS
(GTP結合蛋白)
胆管がん
膵癌
BRCA1/2
(DNA修復)
乳がん
卵巣がん
MYC
(転写)
バーキットリンパ腫 APC
(Wntシグナリング)
結腸、胃、膵癌
家族性大腸ポリポーシス
ErbB1(EGFR1)
(受容体チロシンキナーゼ)
肺腺がん TP53
(異常遺伝子を細胞分裂させない)
ほとんどの癌
Li Fraumeni synd
ErbB2(HER2)
(受容体チロシンキナーゼ)
乳がん RB
(細胞周期)
網膜芽細胞腫
骨肉腫
ABL
(非受容体チロシンキナーゼ)
CML WT1
(泌尿器分化)
Wilms腫瘍
BRAF
(Rasシグナル)
Hairy cell leukemia(Bcell)
メラノーマ
VHL
(ユビキチン)
 腎癌
vHL synd

遺伝性腫瘍症候群 すべて常染色体優性遺伝

症候群名 遺伝子異常 悪性腫瘍
Lynch 症候群 MSH2, MLH1, MSH6, PMS2 大腸がん、子宮内膜癌、卵巣がん
家族性大腸ポリポーシス APC 大腸がん、デスモイド、オステオーマ、脳腫瘍
von Hippel-Lindau症候群 VHL (染色体3p) 血管芽細胞腫、腎細胞がん、褐色細胞腫
Li-Fraumeni症候群 TP53 肉腫、乳がん、脳腫瘍、副腎皮質腫瘍、白血病
MEN type1 MEN1 副甲状腺腺腫、下垂体腺腫、膵腺腫
MEN type2 RET 甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺過形成

*MEN type2以外は残りの対の遺伝子が変異することで悪性疾患を発症する(2 hit theory)

*Lynch症候群:MSH2, MLH1はヌクレオチドのミスマッチを修復する機能。

米国の腫瘍罹患の頻度

腫瘍名 頻度順 死亡率順
男性 1:前立腺
2:
3:結腸
4:膀胱
5:メラノーマ
1:
2:前立腺
3:結腸
4:膵
5:膀胱
女性 1:乳がん
2:
3:結腸
4:子宮
5:甲状腺
1:
2:乳がん
3:結腸
4:膵
5:卵巣

 

RB 網膜芽細胞腫蛋白

Hypophosphorylated retinoblastoma proteinは細胞周期のG1からS(DNAの複製)への以降を止めることで、細胞増殖を妨げる。

癌のリスクファクター

癌種類 リスクファクター
膵がん 喫煙、肥満
胃がん 硝酸物の摂取、飲酒、喫煙、ピロリ菌
肝がん HBV、HCV、肝硬変、ヘモクロマトーシス、アフラトキシン
大腸がん 遺伝性大腸がん症候群、炎症性腸疾患、肥満、炭焼・揚げ物摂取
腎臓がん 喫煙、肥満、高血圧
膀胱がん 喫煙、職業暴露(ゴム、プラスチック、アミン染色、繊維、皮革)
乳がん 早期初潮、遅い閉経、未産婦、BRCA異常
前立腺がん 高齢、アフリカ系

細胞のアポトーシス

以下のメカニズムにより細胞のアポトーシスはトリガーされる

  • 成長因子の欠落
  • DNA損傷
  • 細胞内の異常折り畳み蛋白の蓄積
  • 細胞傷害性T細胞からのシグナル
  • TNF受容体の活性化

例:TNF受容体に属するFas受容体の異常により、自己応答するリンパ球のアポトーシスが阻害され、SLE等に罹患するリスクが増える。

アポトーシスの開始シグナルは内因性(ミトコンドリア)と外因性(デスレセプター)の2つの経路から生じる。内因性アポトーシスに関連してミトコンドリアではチトクロームCが放出される。どちらもカスパーゼを活性化させ、細胞内の蛋白溶解につながる。

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