食道の蠕動障害
アカラシアは中部以降食道の蠕動障害と下部食道内圧の上昇。強皮症では中部以下食道の蠕動障害と下部食道内圧の低下。
Trypanosoma cruziによるシャーガス病でも、寄生虫による炎症によってマイスナーとアウエルバッハ神経叢の破壊が起こり、巨大食道、2次性にアカラシアが生じる。
びまん性食道痙攣 マノメトリーで複数部位の同時収縮が認められる。食道造影ではコークスクリューサイン。カルシウムブロッカーで治療。
逆流性食道炎
妊娠時の合併は、エストロゲンとプロゲステロンの上昇により、食道下部括約筋(LES)が弛緩するため。バレット食道に異形成がなければ、3−5年毎の内視鏡フォロー、低度の異形成の場合は6−12ヶ月毎の内視鏡フォロー。高度の異形成があれば、内視鏡にて根治術を行う。
Zenker憩室
嚥下時の輪状咽頭筋の弛緩障害によって、咽頭内圧が上昇することにより、咽頭後壁に仮性憩室を呈しうる。これをZenker憩室という。
HIV関連食道炎
- サイトメガロ食道炎
大きな線状の浅い潰瘍。細胞内封入体を認める。
- カンジダ食道炎
発赤した粘膜にグレーのぎ膜付着。
- HSV-1食道炎
小水疱、パンチアウト潰瘍。好塩基性細胞内封入体(Cowdry type A)
悪性貧血 Pernicious anemia
Northern European backgroundに。CD4陽性細胞による胃酸および内因子を分泌する壁細胞破壊を呈する自己免疫性疾患。胃内pH上昇、ビタミンB12欠乏性貧血 (hunter glossitis, neurologic symptom)。intestinal-type gastric cancerのリスクとなる。
胃内では噴門および胃体部に変化をきたす。壁細胞は胃腺構造の中間に位置する。深層にはデルタ細胞(ソマトスタチン)、主細胞(消化酵素)が位置する。
検査は抗内因子抗体を行う。
Roux-en-Y 胃バイパス手術後
小腸への食物がバイパスされるため、腸内細菌によりビタミンKや葉酸が過剰生産される。その結果、嘔気、腹満、吸収障害の症状がでる。
胃切除後
胃酸分泌低下による鉄欠乏性貧血が生じうる。また、ビタミンB12、葉酸、脂溶性ビタミンの吸収低下も起こりうる。
また食事が小腸に早く到達するために腹痛、下痢、嘔吐が生じる(ダンピング症候群)。高タンパク食への変更、少量頻回摂取への変更が望まれる。
胃部不快感
60歳以下はヘリコバクターピロリの検査。体重減少等のリスク因子があるものは上部内視鏡検査。
60歳以上は上部内視鏡を行う。
ヘリコバクター・ピロリ
胃前庭部に感染した場合は、ソマトスタチン産生細胞(デルタ細胞)の減少作用と、ヘリコバクター・ピロリのサイトトキシンによる十二指腸の重炭酸の分泌の低下作用により、近位の十二指腸潰瘍となる。
一方で、胃体部に感染した場合は、萎縮性胃炎となり、慢性炎症に伴う潰瘍となる(多くの場合小弯側の胃体部、前庭部の移行部。潰瘍がひどい場合は左・右胃動脈からの出血となる)。また、胃体部のリンパ腫、腺癌となりうる。
治療はオメプラゾール、クラリスロマイシン、アモキシシリンの3剤による4週間治療。コース終了後に呼気尿素検査もしくは便抗原検査を行う。
抗潰瘍薬
アルミニウム塩とマグネシウム塩は弱アルカリ塩として、胃内pHを上げる作用がある。アルミニウムは小腸分泌物と結合して不溶性塩を形成し、便秘の原因となる。逆にマグネシウム塩は浸透圧下痢の原因となる。そのため、アルミニウム塩とマグネシウム塩の合剤は、互いの便秘下痢の作用を打ち消すために混合されている。
十二指腸潰瘍
他の部位の消化管潰瘍(食道、胃、大腸)と異なり、潰瘍は悪性腫瘍とは関係なく、生検の必要性は乏しい。
近位の潰瘍はピロリやNSAIDs由来。しかし、球部以遠の潰瘍はZESを疑う必要がある。
NSAIDs潰瘍
近位の十二指腸潰瘍
上部消化管出血に対する輸血の適応はヘモグロビンが7g/dl以下が適応となる。
虚血性腸炎
脾湾曲部(SMAとIMAの境界)、直腸S状結合部(S状結腸動脈と上直腸動脈の境界)の結腸が、血流支配の分岐部でWatershed的に虚血になりやすい
急性虫垂炎
虫垂の閉塞によって生じ、閉塞原因は糞石が最多で、他にリンパ濾胞の過形成、異物、線虫、カルチノイド腫瘍がある。閉塞により、静脈還流障害、虚血となり、細菌増殖の結果となる。
門脈炎 Pylephlebitis
虫垂炎等の腹腔内細菌感染症の治療放置により、生じる門脈の炎症。決戦が生じうる。
小腸閉塞
結腸ガスが認められれば、完全閉塞では無いことが示唆される。その場合は保存的にまず経過を見る。
憩室症
壁構造が3層保たれている真憩室と、保たれていない偽憩室に分類される。偽憩室は成人期に発症し、粘膜の弱い部分からの拡張で生じる。Zenker食道憩室、大腸憩室症がこの分類となる。
大腸憩室炎は膿瘍形成のため、腫瘤が触診で触れることもある。大腸憩室のリスクは赤身肉、高脂肪食摂取、低残渣食摂取である。
憩室出血は小動脈の損傷によって起こる。
肛門裂傷
歯状線より遠位の縦走性裂傷。血流の少ない後面に好発。括約筋のスパスムが痛みに関連し、さらに肛門の緊張を高めることで、慢性化する。痛みのため排便を我慢することで便秘となり、さらに排便時の肛門ストレスが高まり増悪する。
肛門膿瘍
切開排膿が基本。瘻孔形成のリスクあり。
無βリポ蛋白血症
Microsomal Triglyceride Transfer 遺伝子の異常によるAR遺伝性疾患。生後1年目に腸吸収障害の症状を呈する。脂溶性ビタミン欠乏。病理は腸細胞に輸送できずに蓄積した脂肪を認める。
クローン病
慢性の腹痛、下痢。全層性の炎症(筋性粘膜の肥厚により狭窄、腸閉塞となりうる)、分節性=スキップリージョン。敷石状の粘膜。腸内細菌に反応して腹膜脂肪織が腸管を包む(Creeping fat)。非乾酪性肉芽腫。口から肛門までの腸管どこでも病変を呈しうる。また全層性病変のため、瘻孔、膿瘍(腸管皮膚瘻)を合併する。粘膜筋層の肥厚。粘膜面は敷石状変化となる。非乾酪性肉芽腫はTh1細胞とマクロファージの慢性炎症による。回腸末端に病変がある場合、胆汁吸収障害により、胆汁欠乏、脂肪便(その結果、脂溶性栄養素も欠乏する)となる。脂肪便はCaと結合するため、オキサレートが自由な状態で腸で吸収され(通常はオキサレートカルシウムとして吸収されない)、オキサレート結石による尿路結石となる。また、胆汁の喪失により、生成される胆汁のコレステロールの割合が大きくなることで、コレステロール胆石が生じやすくなる。
Pathogenesis of gall stones in Crohn’s disease: an alternative explanation.
潰瘍性大腸炎
常に直腸病変を伴う。粘膜もしくは粘膜下病変。直腸からの連続性病変。重度の炎症は腸蠕動低下に繋がり、Toxic megacolonを合併しやすい。多量の下血、低い発熱が典型症状。内膜面は潰瘍でただれ、残った粘膜が偽性ポリープとして残る。癌化しやすい。腺窩膿瘍crypt abscess。維持治療はスルファサラジン。
セリアック病 (celiac sprue)
小児や成人に発症する。腹痛(主症状ではない)、悪臭と伴う下痢、体重減少、成長障害等の症状。鉄欠乏性貧血。ヘルペス様発疹。グルテンセンシティブ腸疾患。消化されたグルテン(Gliadin)に対する免疫応答による慢性吸収不良。高濃度のGliadinに曝される十二指腸や小腸絨毛の萎縮(本部位の生検は診断的)。便浸透圧ギャップの上昇を認める。腺窩の過形成。固有層への炎症細胞浸潤を認める。組織トランスグルタミナーゼIgAの自己抗体上昇を認める。栄養障害により疱疹性皮膚炎を合併。
近位小腸にenteropathy-associated T-cell Lymphoma (EATL)の合併リスク。症状は腹痛、B症状(体重減少、疲労感、発熱)、腸閉塞、腸穿孔、消化管出血。
治療はグルテンフリーの食事への変更。欠乏する栄養素(鉄、カルシウム、ビタミンD、葉酸)の補充。骨粗鬆症のリスク管理。肺炎球菌ワクチン。
また、甲状腺疾患合併のリスクがあり、その場合、セリアック病の管理が十分でないとレボサイロキシンの吸収障害となる。
Whipple病
中年白人男性によく認められる稀な疾患。グラム陽性菌アクチノマイセス菌(Tropheryma Whippelii)による小腸、関節、中枢神経の疾患。菌が増殖して膨張したマクロファージ(菌のグリコプロテイン/ポリサッカロイドがPAS染色陽性となる)の固有層への浸潤。吸収障害、関節炎、心障害。抗生剤治療で速やかに改善する。
過敏性腸症候群 IBS
μオピオイド受容体アゴニストのDiphenoxylateが下痢に対して用いられる。高用量の場合は麻薬作用が生じるため注意が必要である。ロペラミドも低効力のオピオイドであり、消化管運動を減弱させる効果がある。腹痛あり、下痢は量が少量から中等量に変化する。
脂肪便
スーダンIII染色による脂肪便の診断が感度が高く、非侵襲的である。
乳糖不耐症
20−40才によく起こりうる。慢性的な大量の水溶性下痢、腹部膨満、ゲップ。腹痛は伴わない。加齢による乳糖酵素の減弱が原因。カルシウムとビタミンDの補充も考慮する。
ウイルス性腸炎
食事は通常の食事で、糖分と脂肪分は控えめとする。BRAT Diet (バナナ、米、アップルソース、トースト)は栄養が低く、糖分、脂肪分も多いため、今は薦められていない。フルーツジュースの摂取はフルクトースやソルビトールの浸透圧のため、下痢を助長するため避ける。
小児疾患
腸閉鎖
十二指腸 | 小腸 | 結腸 | |
原因 | 腸の再開通の障害 | 血管閉塞 | 不詳 |
症状 | 胆汁性嘔吐 Double Bubbleサイン |
胆汁性嘔吐 | 便秘、腹満 |
合併症 | ダウン症 | 胃壁破裂症 | Hirschsprung病 |
腸重積
現在の第一選択治療は空気浣腸もしくは水溶性造影剤浣腸。バリウム浣腸は穿孔時の腹膜炎リスクが高いため、今は行わない。
メッケル憩室
無痛性の消化管出血。胎生期に卵黄管Vitelline ductと接続していた腸管の分離不全。回腸に憩室を形成し、内部に胃や膵の組織形成(Ectopy)が生じうる。シンチグラフィーで胃組織が小腸に写ることで診断できる。3層構造保たれる真性憩室。人口の2%、回盲部から2 feet、2 inchの長さ、2%が有症状性、男児が2倍罹病しやすい。
臍ヘルニア
臍門の閉鎖不全。ダウン症に合併しうる。自然治癒を待つ。閉鎖しない場合は5才ごろに手術治療。
Hirschsprung病
迷走神経に沿った神経堤細胞の遊走障害。肛門、直腸は常に障害され、弛緩障害により閉塞となる。直腸等の狭窄部位の粘膜下生検での神経節細胞の欠如で診断。10%でダウン症に関連する。
肥厚性幽門部狭窄・先天性幽門狭窄
幽門の筋性粘膜の肥厚による、オリーブ大の腫瘤。
生後3−6週に発症。哺乳後すぐの噴出性の嘔吐。嘔吐後は空腹である。エコーで診断。
リスクは第一子の男児、マクロライド系抗生剤の生後2ヶ月以内の投与。
エンテロペプチダーゼ欠損症
膵で分泌されるトリプシーノゲンを消化酵素トリプシンに変換する、小腸刷子縁の酵素。欠損することで、脂質、タンパク質の消化吸収不良となる。
乳糖不耐症
小児中期以降に発症。腸管粘膜は正常。2次性は炎症・感染(細菌の過増殖、giardiaなどの感染性腸炎、クローン病等)による、ラクターゼが発現する小腸刷子縁の障害で急性に発症しうる。乳糖が細菌に分解され短鎖脂肪酸の増加による便pH低下と呼気水素増加、便浸透圧上昇を呈する。
新生児高ビリルビン血症
生理的黄疸 Brestfeeding Failure jaundice:母乳の摂取が不良であるために腸肝循環が亢進して生じる黄疸
母乳性黄疸 Brest milk Jaundice:母乳に含まれる酵素により腸管内のビリルビンが非抱合型になることによって吸収が亢進することによって生じる黄疸。非抱合型ビリルビンの上昇
光線療法は非抱合型ビリルビンが15−18以上で適応