肝臓、胆嚢、膵臓、脾臓の疾患

肝臓

腹水

血清腹水アルブミン勾配 (SAAG)を血清アルブミンー腹水アルブミンで求め、1.1g/dl以下であれば門脈圧亢進による腹水であり、肝硬変、心不全等が原因となる。

1.1g/dl以下であれば非門脈圧亢進による腹水と考えれれ、癌等による悪性腹水と考えられる。

特発性細菌性腹膜炎の場合は、好中球数/mm3が250以上となる。治療は抗生剤とアルブミン投与(腎不全予防の効果あり)。腹水のドレナージは体液量減少により腎障害を悪化させるため、注意が必要となる。

肝硬変による胸水の管理

利尿薬および塩分制限

肝硬変による食道静脈瘤出血入院

感染合併(特発性細菌性腹膜炎、尿路感染、呼吸器感染、菌血症)のリスク高く、セフトリアキソン、ST合剤、NQの予防投与が推奨される。

再出血予防には非選択的βブロッカーが門脈圧を下げ、有用である。

MELDスコア

肝硬変患者の予後予測因子であり、ビリルビン、INR、クレアチニン、Na値が含まれる。

Rye症候群

5-14才児へのアスピリン投与がリスクの急性肝不全、脳症。肝は微小空胞変性で壊死や炎症を伴わない。

門脈血栓症

肝臓の組織像は異常を認めない。門脈圧亢進による脾腫、胃食道静脈瘤形成。

脂肪肝

肝細胞へのトリグリセリド蓄積。アルコールによる脂肪肝は、アルコール分解酵素によって、過剰にNADHが産生されることで、自由脂肪酸の酸化が減るためとされている。組織像は脂肪滴による空胞変性となる。

肝機能の指標

アルブミン値、PT値は肝の合成能の指標。ビリルビン値は肝の有機物輸送や代謝の指標となる。

α-1アンチトリプシン欠損症

α-1アンチトリプシンはセリンプロテアーゼ阻害酵素。これが欠損することで、好中球のエラスターゼが無抑制となり、肺の肺胞破壊となる。また、α−1アンチトリプシン蛋白が肝に蓄積することで肝硬変、肝細胞癌のリスクとなる。

アフラトキシン

コーンや豆、ピーナッツに増殖したAsperigillus parasiticusによる。アフラトキシンはA1、B1、G1、G2があるがB1が最多で毒性も高い。p53遺伝子の変異を誘起し、肝細胞癌になる。B型肝炎ウイルス感染を合併している場合、癌のリスクが非常に高くなることが報告されている。

肝血管肉腫 liver angiosarcoma

血管内皮細胞マーカーのCD31陽性ヒ素、塩化ポリビニル等の発がん物質が関与。

転移性肝臓癌

リンパ節につぐ転移の最多部位。原発性肝細胞癌の20倍の発生頻度。

海綿状血管腫 Cavenous hemangiomas

30−50才に好発する、肝の最多の良性腫瘍。

肝細胞腺腫 Hepatic adenomas

経口避妊薬内服中の若い女性に主に認められる。エストロゲンに反応性増殖する。CTは辺縁に造影効果を認める、境界明瞭な腫瘤。経口避妊薬の停止で消退しうる。

肝サルコイドーシス

ALP,γGTPの上昇、高カルシウム血症、肝腫大。肺病変の合併。

Dubin-Johnson症候群

稀な罹患率。病気、妊娠、ピル服用を誘引とする、抱合型(直接型)の高ビリルビン血症(通常は抱合型ビリルビンの上昇は肝胆道系の鬱滞、障害を意味する)。肝細胞の膜蛋白異常のため、抱合後のビリルビン放出が障害される。エピネフリン代謝物の放出も障害されてリソソームに蓄積するため、肝臓は黒色となる。

Glibert症候群

西側諸国で9%の罹患率。非抱合型(非直接型、間接型)の高ビリルビン血症(通常は非抱合型ビリルビンの上昇は溶血等のビリルビン産生の上昇を意味する。)

Crigler-Najjar症候群

ビリルビンをグルクロン酸抱合するために必要なUGT酵素の欠損。非抱合型ビリルビンは尿から排泄されないため、組織に沈着し、核黄疸と同様にビリルビン脳症による脳障害を呈する。

原発性胆汁性肝硬変(PBC)

疲労感そう痒感、炎症性関節炎、皮膚色素沈着、右季肋部不快感、脂肪沈着ALP上昇抗ミトコンドリア抗体陽性。肝生検も診断に有用。骨粗鬆症を合併する。

慢性的な自己免疫性の肝内胆管の破壊と胆汁うっ滞。肝内小葉間胆管のリンパ球、形質細胞、マクロファージによる破壊(Florid duct lesion)。リンパ球浸潤。GVHDに病理像は類似する。

他の自己免疫性疾患の合併(CREST症候群や1型糖尿病)

治療はウルソデオキシコール酸で進行の抑制、肝不全となれば肝移植

自己免疫性肝炎 autoimmune hapatitis

自己抗体による進行性の肝実質障害。若年から中年女性に生じやすい。他の症状として、関節炎、結節性紅斑、甲状腺炎、肋膜炎pleurisy、心膜炎、貧血、唾液腺炎を伴いうる。抗核抗体、抗平滑筋抗体が陽性。

Budd-Chiari症候群

肝静脈や肝臓内/肝臓上の下大静脈の閉塞による、門脈圧亢進、腹水、うっ血による肝脾腫

肝性脳症

誘引:消化管からの窒素吸収亢進(消化管出血等)、感染、薬剤、脱水、低K、TIPS。

病態:アンモニアの蓄積、脳のグルコース代謝低下等による、脳内での抑制系のGABAの上昇や興奮系のグルタミン酸やカテコラミンの減少。

(アストロサイトは余分なグルタミン酸を神経接合部から回収し、グルタミンに変換してシナプス前神経細胞に戻している。血中アンモニア上昇によって、アストロサイトはグルタミンの生産が亢進するが、その結果、アストロサイトは浮腫状になり、神経細胞へのグルタミンを渡すことができなくなる。その結果、神経細胞においてグルタミン酸が減少する。)

肝膿瘍の感染経路

  • 血行性:ブドウ球菌
  • 胆管逆行性、門脈膿血、胆嚢からの浸潤:腸細菌
  • 経口から腸管経由し門脈:アメーバ

胆嚢

コレステロール結石

胆汁内の不溶性のコレステロールはフォスファチジルコリン両親媒性胆汁塩可溶化しているが、それが減少することにより、コレステロールの析出が起こり、結石となる。

フィブラート系の高脂血症薬はコレステロール7α-ヒドロキシラーゼを阻害し胆汁分泌を減少させるため、コレステロール濃度が高まり、結石のリスクとなる。

親水性胆汁酸のウルソデオキシコール酸により、コレステロール分泌が減り、胆汁酸の分泌が増えるため、小さい結石を溶かす効果があるが、再発率は高い。

色素性結石

10−25%を占める。地方のアジア人種に多い。非抱合型ビリルビンの増加がリスク。カルシウム塩の結石。茶褐色の結石は胆道感染症由来(感染による肝細胞、細菌からのβグルクロニダーゼが放出し、ビリルビンを加水分解することで、非抱合型ビリルビンが増える)、黒色結石は慢性溶血もしくは腸肝循環の増加(回腸の疾患)。黒色結石はレントゲン不透過。

New pathophysiological concepts underlying pathogenesis of pigment gallstones

腸肝循環

胆汁は肝臓でコレステロールより産生されて(primary bile acids)、腸で吸収されて肝臓に戻る。コレスチラミンは胆汁酸と結合し、腸での再吸収を抑制し、排泄を促す。そのため、肝臓での胆汁酸の産生が亢進し、材料となるLDLの血中濃度が下がる。コレスチラミンにより肝臓でのコレステロール産生が上昇するが、スタチンを併用することでこれは抑えることができ、両者でLDL低下のシナジー効果が得られる。

胆嚢摘出後は腸内の胆汁が過剰になり、下痢を伴う事があり。コレスチラミンは胆汁と結合するレジンであり、胆汁による下痢を緩和する。

胆汁うっ滞

肝臓の拡大した毛細胆管と、その内腔に茶ー緑のプラグを認める。慢性化すると脂肪や脂溶性ビタミンの吸収障害を呈する。

胆嚢の運動性低下

胆嚢は胆汁の水分を吸収する働きがあるが、胆嚢壁運動が低下することで、胆汁が過脱水となり、胆嚢内にスラッジ(胆泥)が形成される。スラッジは胆石、特にコレステロール結石のリスクとなる。胆嚢炎、胆道炎のリスクにもなる。コレシストキニンへの反応性不良で診断。

Gallbladder sludge: what is its clinical significance?

無石性胆嚢炎

重症疾患患者に合併し得り、死亡率が高い。胆汁うっ滞や虚血によって胆嚢壁の炎症が原因と考えられている。

妊娠性胆石

エストロゲンは肝臓HMG-CoAを増加させることにより、コレステロールの産生を増加させる。その結果、胆汁はコレステロールが増加する。プロゲステロン胆汁分泌を減らし、胆嚢の運動を低下させる作用がある。その結果、胆石が形成されやすくなる。通常分娩後2ヶ月で自然溶解するため、無症候性であれば治療は必要ない。

胆嚢炎の診断

エコーでの胆嚢壁肥厚や胆嚢周囲の液体貯留が診断的である。エコーで確定できない場合、胆嚢シンチグラフィー HIDA Scan(胆嚢閉塞により、胆嚢が造影がされない)が確定診断に特異的である。

A systematic review and meta-analysis of diagnostic performance of imaging in acutecholecystitis.

結石性胆嚢炎

結石の閉塞によって上昇した胆嚢内圧によって、胆嚢壁は虚血性壊死を呈する。

Porcelain Gallbladder 胆嚢壁高度石灰化

慢性胆のう炎の結果。胆嚢癌のリスクとなる。

結石性胆管炎

24−48時間以内にERCPによる閉塞解除を行う。

胆石イレウス

胆嚢腸管瘻孔を通しての胆石の腸内落下による腸閉塞。最も狭い回腸末端で閉塞する。気腫性胆嚢を認める。

陶磁器様胆嚢

胆嚢壁の石灰化は胆のうがんのリスクとなるため、無症状であっても予防的切除が推奨される。

膵臓

膵炎

胆石とアルコールが最多の原因

アルコールは膵臓に高蛋白濃度、低水分の外分泌を促すため、膵管の閉塞のリスクになること(慢性的な場合はこれらプラグは石灰化してレントゲンに写る)、また、Oddi括約筋のスパスム、アルコールによる直接的な膵分泌細胞の障害もあり、膵炎(トリプシノーゲンの膵内での不適切な活性化)の発症因子となる。

Pathophysiology of alcoholic pancreatitis: an overview.

他の稀な原因としては、ERCP、薬剤(アザチオプリン、サルファサラジン、フロセミド、サイアザイド、バルプロ酸)、感染(ムンプス、コックサキー、マイコプラズマ)、高トリグリセリド血症、膵管や膨大部の構造異常、胃や胆管や心臓の手術、高カルシウム血症。

高トリグリセリド血症は1000mg/dl以上となると、自由脂肪酸がアルブミンの結合可能域を超えるため、トリグリセリドによる直接的な膵腺房細胞の障害となり、膵炎発症となるこれに対する治療は重度であれば血漿交換、中等症以下であればインスリンによる組織へのトリグリセリド取り込みの促進、予防としてフィブレート薬剤投与。

胆石性膵炎の場合は、重度でなければ、発症後7日以内=通常同一入院で胆嚢摘出を行う。重度であれば、回復を待って後日胆嚢摘出を行う。

抗生剤投与はルーチンでは必要はなし。

膵炎の重症度に相関する要素としては、高齢、肥満(BMI>30)ヘマトクリット>44%、CRP値、BUN>20mg/dlが報告されている。

膵炎による組織変化

脂肪細胞の破壊とカルシウム沈着。腸間膜や大網などの周囲組織にも同様の炎症が波及。また慢性膵炎により脾静脈が閉塞することで胃静脈瘤を呈する。

慢性膵炎

腹痛および脂肪の吸収不良。アルコール多飲はリスク。MRCPで膵臓の石灰化、膵臓肥大、膵管拡張、膵のう胞が認められうる。

治療は禁酒、禁煙、疼痛管理、少量の分散食事摂取、膵酵素補充。

慢性膵炎後の膵切除後

膵臓の外分泌能は90%の膵切除まで保たれるが、背景に慢性膵炎等があった場合は、外分泌不全となる。ポリサッカロイドは膵酵素が分解に必要であり、吸収障害となるが、モノサッカロイド(グルコース、ガラクトース、Dキシロース)はそのまま小腸刷子縁から吸収される。産生不全のため、血中トリプシノーゲン値は低下する。

膵癌のリスクファクター

65才以上、喫煙、慢性膵炎、遺伝性因子(遺伝性膵炎、ポイツイエガー症候群、MEN症候群、遺伝性非ポリープ性結腸癌)

膵嚢胞

膵嚢胞の50%に嚢胞性膵癌があると考えられれ、内視鏡的エコー下生検EUSが必要となる。

Cystic Fibrosis

CFTR遺伝子異常によるクロールイオンの輸送障害。その結果、管への分泌液が脱水し、濃くなる。そのため、免疫能が下がり、肺炎を頻発。また、膵管閉塞を起こし、膵の線維化、吸収障害を呈する。また、CFTR変異により輸精管vas deferensは先天性欠損となり、無精子症となる。(精子産生は保たれる)

Vipoma

VIP分泌腫瘍による、無胃酸、水様下痢。膵性コレラ。

吸収障害症候群

便のSudan III染色により、便内の脂肪を確認することで、吸収障害を診断できる。

分割膵

本来、腹側ventral膵から、膵頭部、主膵管が形成され、背側dorsal膵から膵の大半、副膵管が形成される。

しかし、発生異常により、主膵管がventralにより形成されないため、背側膵の副膵管が膵液の大半の分泌を担う。

輪状膵

発生の過程での腹側膵の移動異常による。十二指腸を輪状に覆い、閉塞を来す。

遺伝性膵炎

トリプシノーゲンからトリプシンへの変換障害を来すトリプシノーゲンの変異等による。SPINK1遺伝子異常も原因となる。トリプシノーゲン活性化を制御するメカニズムが異常をきたし、膵管内での活性化に結果することで、膵炎を発症する。

脾臓

脾の発生

脾臓自体は中胚葉から分化するが、脾動静脈は内胚葉から分化する。そのため、脾静脈は門脈系に還流する。

脾の変化

赤色髄の拡大

肝硬変等、門脈圧亢進時に脾の血流鬱滞が生じる際に認められる。

髄外造血

造血前駆細胞が骨髄から肝や脾に浸潤した際に脾で髄外造血を認める。骨髄線維症など。エリスロポエチン反応性。

組織球増殖

ランゲルハンス組織球症等で脾での組織球増殖を認め、脾腫を呈する。

リンパ濾胞拡大

感染性単核球症などの全身性感染症やSLEや関節リウマチなどの自己免疫疾患で認める。

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